時間SFの限りない可能性を信じて

ハヤカワJコレクションから2002年に出版された平谷美樹の「ノルンの永い夢」。正直、後半に差し掛かり作品のテーマが形を成してくるまで読み進めるのにだるさはあったけれど、物語がダイナミックに動き始めたら俄然面白くなり、最後のページまで一気に行けた。

ノルンの永い夢 (ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション)

ノルンの永い夢 (ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション)

ドイツに留学した天才肌の青年と彼が着想した「高次元多胞体」を巡り、時間軸は1930年代と現代(2002年頃)を行き来する。何らツールを必要とせずに意識のみの働きで時間を行き来する(ように見える)のがこの作品の肝なのだが、これがなかなか受け入れ難い。だが後半に至り丁寧な解説を読んでようやく明確にイメージ出来るようになった。

(以下、少しネタバレあり)

何を書いてもネタバレになってしまうので細かい所は避けるが、一切の過去干渉において矛盾が発生しない歴史改変の説明として、実に鮮やかな解答例だと感じた。何しろ、人間の意識すら改変結果に収斂できてしまうのだから。これなら先日TV放映された「バブルへGO!!」のラストを観て抱かざるを得ない疑問、「バブルが続く未来に“戻った”主人公たちを迎えた下川路の意識って改変前と断絶してるんじゃないの? 『お帰り』ってヘンじゃない?」も、難なく説明出来てしまう。言わば「時間軸を含めた宇宙のデザイン」なんてともすれば危険なコトを、ひとりの人間の頭の中で出来るように設定したところが素晴らしく、諸々の技術的破綻をうまい具合に避けることに成功している。

無限にあり得た世界を、しかもかなり酷な分岐をこれでもかと繰り出す終盤は圧巻。それゆえに主人公の悲哀がようやく伝わってくるようになっている。スピリッツで連載中の「地平線でダンス」の最新号で描かれたIF世界の見せ方にモロ通じているので、あの漫画のSFテイストが好きな方にもオススメな一作だ。